はじめに
近年、あすか塾(兵庫県西宮市)のある近畿圏の国公立大学二次試験英語では、自由英作文(完全に自由というわけではなく、大枠のテーマが決められているのでテーマ英作文とも呼ぶ)が定着してきています。
TOEFL iBTやIELTSの影響もあるかもしれません。
これらの資格試験の影響力は年々高まっているので、大学としても、そこに含まれるエッセイ作文を受験生に練習してきてほしいのでしょう。
大阪大学や神戸大学では毎年自由英作文の出題がありますし、また長年古色蒼然とした「和文英訳&英文和訳」の形式を守ってきた京都大学でも最近出題され始めて話題になりました。
関西の私立大学では甲南大学が近年この形式の問題を採用しています。
すると当然、「書く内容が思いつかない」「書いていても指定語数に達しない」といった悩みを持つ受験生が多く見られることになります。
そこで、主に国公立大学志望の生徒に向けて、どのように自由英作文の対策を行えばいいのかを、あすか塾での授業に基づき、「アイデア出し⇒組み立て⇒作文」の順で考えていきたいと思います。
ちなみに、決まった日本語の文を英語に訳すという伝統的な「英作文(和文英訳)」の攻略法に関しては、下の記事をご覧ください。
アイデア出し
さて、自由英作文では、問題文を読んだらいきなり解答(英文)を書き始めようとする人が多く見られます。
しかし、だいたいは途中で手が止まり、時間だけが過ぎていくことになります。
そうならないように、まずは急がば回れ、書くための材料(アイデア)をそろえることから始めましょう。
料理で言えば、そもそもどんなものを作るかを、手持ちの材料から概ね決めることです。
全体の命運を定める重要な作業であることがお分かりいただけると思います。
例えば、大学でよく使われている英作文(アカデミック・ライティング)の教科書Longman Academic Writing Series 3 (Alice Oshima & Ann Hogue著、Pearson Education) (以下LAWS3)には、エッセイを書く準備段階として、アイデア出しの技法が以下のように3つ紹介されています。
- リスティング
- クラスタリング
- フリー・ライティング
詳細は後述しますが、これらの作業であらかじめ各内容を準備しておけば、書いている最中に考え込んで時間をロスするということはなくなります。
このネタ出しの段階では、わざわざ英語で書く必要はないでしょう。
アイデアは母語の方が出やすいので、日本語で行って構いません。
リスティング(ブレインストーミング)
まずリスティングですが、これはトピック(論題)をめぐって思いついた事柄を何でもかんでも書き留めて、雑多なリストを作っていくという方法です。
通常複数人で思いついたことを何でも言いあう「ブレインストーミング」というアイデア生成の技法がありますが、あれを一人でやるということです。
ここでのポイントは、「何でも」書き留めるということです。
自己規制せず、とにかく頭をよぎる言葉をたくさん書いていきましょう。
質より量、頭より手を動かす意識が大切です。
苦し紛れに書き付けた言葉が、後で意外な形で役に立ったりするものです。
5分くらい手を止めずに書くと雑多な、でもいちおうトピックに関連はしている事柄が20個以上並んだ箇条書きが出来上がります。
これが作文の材料になります。

上の例は英語ですが、先ほども言ったように日本語の箇条書きで構いません。
ここから使えそうな事柄、特にお互いに関連してグループを形成することができる事柄を見つけていきます。
使えなさそうなものは消していきます。

上の例だと「祖父が地域社会に役立った」ことを全体をまとめるトピック候補としてピックアップし、「農法を改善した」ことと「病院を始めた」ことをその具体例として採用しています。
これをパラグラフに構成していくわけです。
クラスタリング(マインドマップ)
リスティングとはまた別の技法を紹介します。
先ほどの教科書(LAWS3)では「クラスタリング」ですが、一般には「マインドマップ」と呼ばれているものです。
この技法では、まず与えられたトピックを紙の中心に書いて、線で丸く囲みます。
それからその周囲に、思いつく関連事項をいくつか書き、やはり丸で囲んで中心の円に線でつなぎます。
それぞれの円について、アイデアが出なくなるまで同じことを繰り返していきます。
アイデアが出やすい方面に集中して取り組み、他をなおざりにしておいてもまったく構いません。
リスティングと同様に、なるべく止まらずに書き続けることを第一にしましょう。

自由な発想でアイデアをたくさん出そうというのはほかの技法と同じですが、マインドマップは連想が働く度合いが高いので、発想が出やすいかもしれません。
また、各クラスタ(アイデアの集まり)が連想による一貫性を持っているので、そのままパラグラフ内の一連の文章に落とし込みやすいという特徴もあります。
リスティングの後に必要だったアイデアのグループ分けが、すでにある程度できているわけです。
私自身はリスティングの方が連想に縛られず自由で好きですが、マインドマップの方を好む人もいます。
実際、数年前に某国立大学に合格したあすか塾の生徒は、この手法がやけに気に入ったようで、2次試験直前の特訓でひたすら円と線を書き連ねた結果、苦手だった自由英作文を逆に得点源にして合格しました。
フリー・ライティング
フリー・ライティングはその名の通り、思ったことを何でも書いていくというやり方です。
LAWS3では「約10分止まらずに書き続ける」ように指示されています(p. 47)。
はじめは
「地球温暖化についてがテーマだけど、何を書いたらいいんだ。最近暑い、アイス食べたい。温暖化で暑いからアイスもすぐ溶ける……」
みたいに、頭に浮かぶことを何でも書いていきます。
頭に浮かぶというよりもむしろ、頭ではなく手が勝手に書いていくような状態が理想です。
字を書き続けること自体を目的化することによって、自制心や自己検閲から頭を解き放ち、リラックスした状態でアイデアの流れをスムーズにしてやるわけです。
書いているうちに作文に使えそうなトピックに行き当ったら、それについてフリー・ライティングを続けていき、トピックを発展させます。
ただこの手法は時間的な効率がいいとは言えず、解答時間が限られた大学受験向きではないかもしれません。
構成
さて、上のようなやり方で課題に関連するアイデアを集めたら、パラグラフの形に組み立てていきます。
大学入試の自由英作文の制限語数は50語~100語くらいが多く、これは実質与えられたテーマについて1つのパラグラフを書け、と言っているのと等しいことになります。
サンドイッチ構造
英語のパラグラフは構成がある程度決まっていて、英語圏の作文の教科書にはたいてい「パラグラフはサンドイッチの構造をしている」と書かれています。

すなわち、パラグラフ全体が何について書いてあるのかをはっきり宣言するトピック・センテンス(topic sentence)が最初に来て、次にトピック・センテンスの内容を具体例を挙げて論証するサポーティング・センテンス(supporting sentences)がいくつか続き、最後にトピック・センテンスを改めて確認する内容のコンクルーディング・センテンス(concluding sentence)が締めくくるという構造です。
トピック・センテンスとコンクルーディング・センテンスというパラグラフ内容を簡潔に述べる2枚の「パン」が上下からパラグラフ全体の構造を支え、サポーティング・センテンスという具体性に富み彩り豊かな「具」が読んでおいしいところを担っているというわけで、なかなかよくできた比喩だと思います。
現実社会の英語の文章には様々な他のバリエーションがありますが、大学入試の自由英作文ではこのサンドイッチ構造一本やりで練習していけばいいでしょう。
フォーマット
ただし本当は、ただサンドイッチというだけでは足りなくて、「具」に当たるサポーティング・センテンスも小見出しのような「サブトピック」(subtopics)と「具体的記述」(supporting details)に分ける必要があります(特に80語以上の長めのパラグラフの場合)。
その結果、細かいパラグラフ構造は以下のようになります。
TOPIC SENTENCE
Subtopic 1 + supporting detail + supporting detail + …
Subtopic 2 + supporting detail + supporting detail + …
Subtopic 3 + supporting detail + supporting detail + …
…
CONCLUDING SENTENCE
アイデアの組み立て
具体的にどのように書いていくかですが、例えばリスティングで材料を集めた場合、雑多に並んだ項目の中から素早く
- サブトピックになりそうな包括的なもの
- それと関連性があり、サポーティング・センテンスに使えそうな具体的なもの
を拾い出します。
トピック・センテンスは上記1.で拾い上げたサブトピックとなる要素を「紹介する」ような文にすればうまくいくでしょう。
例えば「地球温暖化」がテーマで、サブトピックに「異常気象」と「海面上昇」を選んだなら、「地球温暖化は2つの良くない結果につながる」(Global warming can lead to two undesirable consequences.)という文にすれば簡単です。
「結果」のほかには反対の「原因」や「理由」、「利点」などをいくつか述べるのが定番ですね。
マインドマップでも同じような手順になります。
先述したように、こちらの方がより組み立てが容易になるでしょう。
いずれにせよ、実際の作文に移る前に、必ず上の「パラグラフのフォーマット」で図示したようなアウトライン(設計図のようなもの)を、簡単なものでいいので書いておきましょう。
これを参照しながら作文すると、書きながら考えることが減るので、結果的に時間の短縮になります。
(50語以下の短いパラグラフの場合なら、頭の中で組み立てるだけで足りることももちろんあります。)
作文
上で構成したアウトライン(設計図)を実際のパラグラフに書き直していきます。
自由英作文でも和文英訳でも英作文の基本的なコツは共通です。
和文英訳の取り組み方は下の記事にまとめてありますのでご参照ください。
上の記事でも述べているように、大学入試の英作文で気を付けるべきことは以下の3つです。
- SV(特に主語)を意識して文を組み立てる
- 一文一文を短くする
- なるべく間違っていないと自信のある言い回しを用いる
上記に加えて、自由英作文では”First,” “Second,” “Finally,” “Next,” “Moreover,”といったつなぎの語句(discourse markerとかtransition signalと言われる)を、サブトピックの冒頭やコンクルーディング・センテンスの冒頭などに置くようにしましょう。
読み手にとって情報の流れがスムーズになります。
得意技を持つ
自由英作文では、当然ながら和文英訳よりも格段に「自由」の幅が広がります。
そこで、「得意技」のようなフレーズを頭の引き出しに常備しておくのもいいでしょう。
例えば”because of ~” (~のために)や”in terms of ~” (~の面で)といった前置詞は重宝します(これは和文英訳でも同様)。
トピック・センテンスの最後に、”for the following reasons”(以下の理由で)をくっつけるというのも定番ですね。
また、数十語の作文でも受験生にはなかなか大変で、「何を書いていいのかわかりません」となりがちです。
そのため、自分の意見の前に”Although some people say that …”のように反対意見を踏まえておくというやり方は、議論に深みも出ますし、文構造が単調さを脱して語数も稼げるので、なかなか使えるのではないでしょうか。
さらに内容面では、「気候変動(climate change)」や「グローバル化(globalization)」といった近年問題となっている事柄を持ちネタとして、どんな話題にでも結び付けて論じていくという戦略もあり得ます。
実体験を語る
上で述べたように「何を書いていいのかわかりません、思いつきません」となってしまう受験生はたくさんいます。
そういう時におすすめなのは、「実体験を語る」ことです。
例えば「遊びの効用について自由に述べよ」というお題が出たとして、”Play is important for children’s development.”(「遊びは子供の発達に重要だ。」)くらいは思いついても、後が続かなくて停滞するというのはよくあるケースです。
その場合、”For example, when I was a primary school student, I often played with a friend in the park near my house.”(「例えば私は小学生のころによく友達と家の近くの公園で遊んだ。」)と続けて、実際にあった事柄を実例として語ればいいのです。
出来事には「いつ、どこで、誰が……」を述べる必要がありますし、具体的にあったことなので書きやすくなります。
この方法を取ると、途端に今度は「語数が足りません!」という事態が生じますが(上の例文だけでも21語)、そこは適宜短縮してください。
なお出来事は本当の経験である必要はありません(作り話でもばれないので)。
なので短編小説を書くようなつもりで取り組んでもいいですが、ふつうは実体験のほうが書きやすいでしょうね。
見直し
書き上げたらざっと見直してください。
人称の揺れ(一般論なら主語はweなのかyouなのか統一するなど)、時制、三人称単数現在の-sが抜けていないか等が定番のチェックポイントです。
大した間違いではないとも言えますが、文法・語法の誤りはやはり減点になりますので、1点を争う入試においては誤りを最小限に抑えるように努めましょう。
実際の入試問題を解く
それでは試しに実際の入試問題の解答を作ってみましょう。
アイキャッチ画像に使用した神戸大学の2018年英語の第4問を取り上げます。

ここでは(1)の「どちらのピクトグラムの方が海外からの観光客にとって適切だと思いますか」という問題に答えてみましょう。
リスティング
この問題ではトピック・センテンスは決まっていて、「私はこれこれこういう理由でこちらの方がよいと思う」になるはずですね。
直感でそれをまず決めて(あまり考えこまず、書きやすいと思える方にしましょう)、リスティングでアイデアを出してみます。
ピクトグラムBについて
- 温泉
- お湯
- 湯気
- 人間
- ニホンザル
- 露天風呂
- 有馬温泉
- 混浴
- 観光客
- 情報
- 海外
- アジア
- お土産
- 3人
- 冬
- 修学旅行
- 旅館
- 日本
- 習慣
- 文化交流
上のようなリストができました。ざっと眺めてみると、ピクトグラム自体を言語化した情報と、そこからの連想で出てきたアイデアが入り混じっています。
リスティングの整理
上でサブトピックに使えそうな概念は「情報」と「習慣」ぐらいでしょうか。
そこで、ぼんやりとどんなパラグラフにするかも考えつつ、上の表で「情報」のパートで使えそうな項目を赤、「習慣」の項目で使えそうな項目を黄色で色分けし、使えないものは消してしまいます。
ピクトグラムBについて
- 温泉
- お湯
- 湯気
- 人間
ニホンザル露天風呂- 有馬温泉
混浴- 観光客
- 情報
- 海外
- アジア
お土産- 3人
冬修学旅行- 旅館
- 日本
- 習慣
- 文化交流
そうすると上のように整理できました。
ピクトグラムBがピクトグラムAよりも多くの情報を含むこと、また多人数での入浴という日本の公衆浴場ならではの習慣を表していることを利点として挙げればよさそうです。
アウトライン
それではアウトラインを組みます(今回は60語と短めなのでメモ程度でもいいですが)。
以下は英語で作ってみましたが、ここもまだ日本語でいいと思います。
TS: I think pictogram (B) is better than pictogram (A) for the following reasons.
A. It contains more information.
1. Vapor = hot water
2. People = a bath, hot spring
B. It represents the Japanese custom better.
1. Three people sharing a bath
2. International communication (my Arima Onsen experience)
CS: For the reasons above, I would adopt pictogram (B) in order to attract more overseas tourists to Japan.
※TS: topic sentence CS: concluding sentence
60語だとこんなもので十分でしょう。
ライティング
これをパラグラフの形に作文していきます。
書いている途中でもいろいろ思いつくでしょうが、あまり本筋を外れると時間のロスにつながりますので、てきぱきと進行しましょう。
I think pictogram (B) is better for some reasons. First, it contains more information than pictogram (A). There are three persons in it, so it represents a hot spring, not just hot water. Next, pictogram (B) expresses the Japanese custom. I visited Arima Onsen last summer and found many foreigners amused by the custom of sharing one bathing place. Pictogram (B) depicts that. Thus, I would adopt pictogram (B).
実際に書いてみると、上のアウトラインだと最初は120語以上のパラグラフができてしまい、削るのに時間がかかってしまいました。
指定の語数が60語程度の場合、サブトピックへの分割など無しで、主なトピック1つだけでも十分こなせそうです。
とにかく、何とか上のアウトラインに沿って60語台に収まるパラグラフが書けました。
「有馬温泉に行ったら外国人がたくさんいた」という体験も(ちょっと嘘が入ってますが)交えてみました。
満点は望みづらいですが、高校生でも書ける、なおかつ高得点を狙える答案ではないかと思います。
まとめ
そもそも大半の高校生は英作文が苦手なのですが、自由英作で「自分の考えを書け」と言われるとさらに戸惑ってしまうかもしれません。
しかし言語表現には型というものがあり、それに沿って初めて個性的な考えが表現できるものです。
ぜひここで紹介した「アイデア出し→型に従った組み立て→作文」のルーティーンを繰り返し練習して、基本的なパラグラフの形式を習得してください。
さらに、実際の入試に向けてこの形式の練習を繰り返すうちに、自分なりの話題の展開や書き方がパターン化してきます。
そうなると、リスティング→アウトラインまでの過程をざっと頭の中で済ませて、メモ書き程度の前準備で書き始めることもできるようになってきます。(今回のように語数が少ない場合は特に。)
やがて、練習を始めたころの半分以下の時間で、もっと質の高い答案が書けるようになります。
こうなれば、自由英作文が得意になり、書くのが楽しくなってくると思います。
パラグラフの型がしっかり身についていれば、それをいくつか連ねて論を展開していくエッセイ(小論文)も苦になりません。
大学に入ってから課される「レポート」に悩まされることも少なくなるはずです。
最初に挙げておきましたが、以下の記事の、和文英訳のコツも参考にしてください。
文責 あすか塾スタッフ I.